
ギターで一音だけ弾きます。
当然、鳴るのは自分が弾いた音です。
ところが、その音に別の高さの声が重なり、片方は少し遅れて立ち上がり、別の声は左右に配置される。さらに、ピッキングの強さを合図に音程が動き始める。
弾いたのは一音です。
でも、出てきたものは、もう一音分の出来事ではありません。
HOTONEから登場したFreqluxは、3基の独立したピッチボイスを持つエフェクターです。日本でも製品ページと購入先が公開され、参考価格は49,500円(税込)となっています。
ただ、これは「ハモリを三つ足せるペダル」とだけ説明すると、少し大事なところを落としてしまう気がします。
Freqluxが触ろうとしているのは、音の数だけでなく、一人で弾くということの輪郭です。
なお、この記事はメーカーの公開情報とデモ、海外レビューをもとにした観測です。実機を試奏してのレビューではありません。
一音の後ろに、三つの判断がある
Freqluxには、完全に独立した3基のピッチエンジンがあります。
それぞれに異なる音程、動作、モードを設定でき、音量だけでなく、左右の位置、音色、立ち上がり方も個別に調整できます。
たとえば、一本は原音より上に置く。もう一本はわずかに音程をずらして広がりを作る。残った一本はゆっくり立ち上げる。
元になっているのは、どれも同じ一音です。
それでも、同じタイミング、同じ場所、同じ表情で鳴らさなければ、それぞれが別の役割を持ち始めます。
普通のピッチシフターは、入力された音を何度上げるか、何度下げるかという関係が中心でした。メーカーによれば、Freqluxにはコードの形を保ちながら音程を動かすPoly、細かなずれで厚みを作るDetune、動きを加えるMod、スケールに沿って音を展開するARPなど、複数の考え方が同居しています。
ここまで来ると、原音とエフェクト音の関係というより、小さな編曲に近くなります。
機械にキーを教える
中でも気になるのがKeyモードです。
キーとスケールを設定すると、Freqluxは弾いた音に対して、その調の中で動くハーモニーを作ります。
同じ幅を機械的に平行移動するのではありません。今どのキーにいて、どのスケールを使うのか。その前提を渡したうえで、音ごとに役割を変えていきます。
つまり、演奏を始める前に、こちらが機械へ音楽のルールを説明しなければなりません。
これは少し面白い順序です。
ギタリストは、理論を完全に言葉にできなくても、耳と指でハーモニーを選べます。しかしFreqluxに任せるには、「この曲は何のキーなのか」「どのスケールの中で動かすのか」を一度明確にする必要があります。
機械へ教えようとした瞬間、自分が曖昧にしていたことが返ってきます。
以前、スケールとコードの中間を狙うという記事を書きました。スケールをただ上下するのではなく、コードの響きを意識しながら音を選ぶという話です。
FreqluxのKeyモードが内部で行っていることも、その境界と無関係ではありません。スケールという枠を持ちながら、鳴っている音に応じて別の声を選ぶからです。
エフェクターの話をしていたはずなのに、いつの間にか演奏者側の音選びへ戻ってきます。
足を離しても、音が動く
Freqluxには、Fluxというリアルタイムコントロールがあります。
フットスイッチを押すと、設定したカーブに沿って音程が滑らかに移動します。上がり方、下がり方、動き出す速さまで組み立てられるので、単なるオン/オフではなく、音程の変化そのものを演奏できます。
さらにAuto Fluxでは、ピッキングの強さを検出して、ピッチスライドやアルペジオを自動で始められます。
強く弾く。
その強さを機械が受け取り、あらかじめ決められた動きを返す。
こちらが直接操作したのは弦ですが、その身振りは足元で別の運動へ展開されます。動きの細部を実行するのはFreqluxなので、どこまでを自分が弾いたと呼ぶのかは少し曖昧になります。
音を増やすには、決めることが増える
もちろん、三つの声を重ねられるからといって、何をしても音楽になるわけではありません。
音程、音量、左右の位置、立ち上がり、各ボイスのエフェクト。選べるものが多い分、三つの声に役割を与える作業がいります。
海外のAudioTechnologyによるレビューでも、習熟後の柔軟さを評価しつつ、メニュー操作は複雑になり得ると指摘されています。
200のプリセットスロットに加え、MIDIとUSB接続のエディターにも対応しています。踏んだ瞬間に答えが出るというより、自分でルールを作り、演奏へ持ち込むための機材です。
決めたルールの中で、演奏の強弱やタイミングが毎回少し違う結果を返す。Freqluxのおもしろさは、その準備と偶然が接するところにありそうです。
増えたのは音か、演奏者か
Freqluxは、ギタリストを三人に増やす機械ではありません。
追加される声は、こちらが弾いた音を起点にしており、設定したキーや動作から完全に自由なわけでもありません。
だから、別の演奏者と呼ぶには従順すぎます。
ただのコピーと呼ぶには、動きすぎます。
一人の演奏に、別の高さ、別の時間、別の位置を持った声が重なる。その声は自分から生まれていますが、自分が指で弾いた通りにだけ鳴るわけではありません。
一人で弾いている。
でも、一人分の音ではない。
Freqluxは、その少し不安定な状態を足元に置くペダルなのだと思います。
音を増やすことより、増えた音のどこまでを自分の演奏と呼ぶのか。
実際に触れたとき、確かめたいのはそこです。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
それでは、Love Guitar!



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