
スマートフォンでギターの音を作ること自体は、もう珍しくありません。
アンプの音を再現するアプリを開き、ギターをつなぎ、ヘッドホンで弾く。録音までiPhoneやiPadで済ませている人もいます。
それでも、どこか「パソコンの代わり」という感じは残っていました。
今回見つけたToneRigは、その距離をもう一段縮めています。
アプリの中でアンプの音を選び、スピーカーやエフェクトと組み合わせる。作った音を保存し、足元のスイッチから切り替える。複雑な音作りも、一つの画面で扱えます。
iPhoneやiPadが、音を探すための端末ではなく、そのまま一つの演奏環境になり始めています。
この記事は、ToneRigを実際に接続して音の良し悪しや弾いた時の遅れを確かめたレビューではありません。2026年8月18日時点のApp Store、開発者マニュアル、公式情報、海外メディアをもとに、この新しいアプリが何を変えそうなのかを整理します。
ToneRigとは
ToneRigは、iPhoneとiPadをギター/ベース用のアンプやエフェクターとして使うアプリです。
2026年7月8日に公開され、8月時点ですでにバージョン1.3.7。公開から一か月余りの間に、アンプの音を扱う機能、足元からの操作、録音アプリとの連携などが次々に追加されています。
使うには、iOS/iPadOS 17以降の端末と、iPhone/iPadに対応したギター接続用のUSB機器が必要です。ギターをその機器につなぎ、音はヘッドホンかスピーカーから聴きます。
Bluetoothイヤホンは使えません。音が遅れて聞こえ、演奏しにくくなるためです。
ここは大切です。
アプリを入れて、iPhoneのマイクに向かってギターを鳴らせば完成するわけではありません。ギターと端末をつなぐ小さな機器が、別に必要です。
そこまで用意すれば、無料版でも自分で持っているアンプやスピーカーの音データを読み込めます。音を整える、揺らす、遅らせる、響きを加えるといった加工も、アプリの中で組み合わせられます。
日本のApp Storeではアプリ本体は無料。ToneRig Proは買い切り1,500円です。
Proにすると、作った音を多く保存できるほか、音の通り道を二つに分ける、足元のスイッチから操作する、ネット上の音色を制限なく取り込む、GarageBandやLogic Proの中でToneRigを使う、といった機能が開放されます。作った音や取り込んだ音データは、iCloudへ手動でバックアップできます。
ただし、音の通り道を二つに分ける機能と、ほかの音楽アプリ用エフェクトをToneRigの中で使う機能は、ToneRigを単体で開いている時だけ利用できます。GarageBandなどの中でToneRigを呼び出した時には使えません。
なお、ToneRigは、アンプの音を再現する技術や、ネット上の音色サービスとは別の開発者が作った独立製品です。公式の共同開発アプリではありません。
実物のアンプの鳴り方を、iPhoneへ持ち込める
ToneRigでは、実物のアンプやペダルに音を通した時の反応を、データとして読み込めます。
録音された一つの音を再生するのではありません。弱く弾けば穏やかに、強く弾けば荒くなる。そうしたアンプの反応をコンピューターに覚えさせ、対応する機材やアプリで使えるようにしたものです。
2026年6月には、この仕組みの新しい世代が公開されました。以前より細かな反応を再現しながら、端末にかかる負担を減らしたと説明されています。
ただし、音質比較の数字は開発側の試験結果です。どんな環境でも必ず優れているとまでは言えません。
ただ、使う側にとって大切なのは、小さな機器でも動かしやすくなったことです。
高性能なパソコンの中だけでなく、ペダル、アンプ、スマートフォンでも、実物のアンプを再現した音を扱える余地が広がりました。ToneRigは、その流れをiPhoneとiPadの上で受け止めます。
新しい方式に対応した音データは、端末に合わせて処理の細かさを調整できます。負担が高ければ少し軽くする。音が途切れる時は、安定しやすい設定へ変える。重い加工を減らす方法もあります。
小さな端末に、大きな処理を無理に押し込んだわけではありません。弾いた時の反応と安定性の間を、使う人が調整できるようになっています。
ネット上のアンプの音を、ToneRigの中で選べる
ネット上には、さまざまなアンプやペダルの鳴り方を再現した音データが集まるサービスがあります。
これまでは、Webサイトで音を見つけ、ファイルをダウンロードし、対応するアプリへ読み込む必要がありました。
ToneRigでは、その音色サービスをアプリの中から見られます。新着や人気の音、自分のお気に入りから選び、名前や種類で絞り込み、その場で試せます。
しかも、用意された見本を聴くだけではありません。
今使っているエフェクトやスピーカーの設定を通して、新しいアンプの音を試せます。気に入ったら、そのままToneRigへ取り込めます。
選ぶ。今の音作りで試す。気に入ったら残す。
この流れが、Webサイトとアプリの間で途切れません。ネット上の音色集が、いま作っている音へ直接つながります。
ここに、ToneRigの新しさがあります。
一列に並べるだけでなく、二つの道を作れる
ToneRigは、アンプの音にいくつかのエフェクトを足すだけのアプリではありません。
Proでは、ギターの音を二つの道へ分けられます。
普通のエフェクターボードでは、音は一つの道を順番に進みます。分かりやすい一方で、リバーブを深くかけると元の音まで遠くなったり、低い音まで強く歪ませると輪郭が崩れたりします。
二つに分ければ、片方には元の音を残し、もう片方だけを深く加工できます。低い音は整えたまま、高い音だけを歪ませることもできます。最後に二つの音を混ぜ、バランスを整えます。
整った音と、崩れかけた音を同時に置く。
二つをどちらかに決めず、一つの出力へ戻す。
こういう音作りには、Rimoが惹かれてきた「整っているのに、少し揺れている状態」があります。
画面で作り、足元で呼び出す
スマートフォンの弱点は、演奏中に触りにくいことです。
弦を押さえ、ピックを持ったまま、小さな画面のボタンを正確に押すのは難しい。机の上で音を作る時には便利でも、ライブでは足元の機材に戻りたくなります。
ToneRig Proでは、対応する別売りのフットスイッチや操作機器をつなげます。
保存した音の切り替え、エフェクトのオン/オフ、曲に合わせたテンポの入力、チューナーやルーパーの呼び出しなどを足元から操作できます。
一つの音作りには、設定の変化を最大8個まで保存できます。
たとえば、同じアンプとエフェクトの組み合わせを保ったまま、伴奏用、音量を上げたソロ用、深い残響を加えた場面用と切り替えられます。演奏中に、画面で一から作り直す必要はありません。
音を作る時は、画面の広さを使う。
弾く時は、足元へ戻す。
iPhoneだけですべてを済ませるのではなく、演奏中に必要な操作だけを、自然な場所へ戻しています。
ToneRigが向いている人
ToneRigが特に合いそうなのは、次のような人です。
- すでにiPhoneやiPadと、ギターをつなぐ機器を持っている
- 実物のアンプを再現した音を、パソコンを開かずに試したい
- 家での練習、録音、持ち運び用の機材を一つにまとめたい
- 足元のスイッチを使い、ライブでもスマートフォンを活用したい
- 二つの音を混ぜる音作りを、小さな構成で試したい
一方で、全員にすぐ勧められるわけではありません。
iOS/iPadOS 17以降が必要で、2026年8月18日時点ではAndroid版を確認できません。表示言語は英語です。ギターをつなぐための機器も別に必要です。
また、アンプの再現や残響など、負担の大きな処理をいくつも重ねれば、端末の処理負荷が増え、音切れやノイズが出る場合があります。画面上の自由度が高いぶん、専用機器のノブとスイッチだけで完結する分かりやすさは失われます。
アプリ自体も、公開からまだ一か月余りです。
更新が速いのは魅力ですが、長く使った時の安定性やサポートは、これから見ていく必要があります。
演奏環境は、小さくなったのではなく、ほどけた
Guitar Worldは2026年8月第2週の新機材まとめで、ToneRigが新しい方式のアンプ音に対応したことを取り上げました。
日本語圏では、まだ製品名を解説する記事や動画がまとまって増えている段階ではありません。だから、ToneRigを国内で流行しているアプリとは言えません。
それでも、見ておく価値はあります。
以前Rimo Blogでは、小型ギターアンプは、もう練習用で片づけられないという記事で、実物のアンプを再現する技術が、練習、録音、音作りの境界を消し始めた流れを観測しました。
ToneRigでは、さらに箱の輪郭が薄くなります。
アンプの音はネットから選ぶ。音の通り道は画面で組む。ギターとヘッドホンは小さな接続機器が受け持つ。演奏中の操作は足元のスイッチへ移す。録音する時は、GarageBandやLogic Proの中でToneRigを使う。
一台の機材が、全部を抱えているわけではありません。
機能は複数の場所へほどけています。
それでも、ギターを弾いた瞬間には、一つの演奏環境として成立する。
ToneRigが面白いのは、iPhoneの中に大きな機材をそっくり再現したからではなく、演奏環境を小さな役割へ分け、もう一度つなぎ直したからだと思います。
ギターの演奏環境は、箱ではなく、機器同士のつながりになり始めています。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
それでは、Love Guitar!



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