
ギターの機材は、たいてい「もっと良い音」を目指して進みます。
ノイズを減らす。低音を引き締める。小さな音量でも、大きな真空管アンプのように鳴らす。
ところが、その流れを反対向きに走るペダルが出てきました。
JAM PedalsのTiny Amp Destroyerです。
大きなアンプを、質屋で見つけた安い小型アンプのような音へ変える。しかも、小型アンプが限界を越え、箱ごと崩れかけている時の鳴り方を狙っています。
普通なら避けたくなる音です。
それをわざわざ回路として作り直し、日本では74,800円で販売する。かなり変わった話に見えます。
でも、ただの冗談ではありません。
整っていない音にしか残らないものを、演奏できる形へ戻したペダルです。
この記事は実機を試奏して、音質や使い勝手を評価したレビューではありません。2026年8月24日時点のメーカー、国内販売店、国内外のギター媒体が公開している情報から、Tiny Amp Destroyerが何を音として残そうとしているのかを観測します。
国内で流行している、という話でもありません。発売直後に、メーカー、国内販売、複数の海外媒体が同時に動いた小さなシグナルを読む記事です。
Tiny Amp Destroyerとは
Tiny Amp Destroyerは、JAM PedalsとKing Gizzard & the Lizard WizardのStu Mackenzieが共同で作ったオーバードライブ/ディストーション・ペダルです。
2026年8月18日に世界発売され、日本でも同日から販売が始まりました。国内価格は、確認時点で74,800円です。
もとになったのは、Stuが質屋で見つけた安い小型アンプでした。
そのアンプへ2台のブースターをつなぎ、本来の限界を越えるまで押し込む。すると、整った大型アンプでは出しにくい、箱っぽく、荒く、不安定な歪みが現れます。
JAM Pedalsは、その機材構成をそのまま小さくコピーしたわけではありません。
どこから音が崩れ始めるのか。弾き方に対して、どんな不安定な反応を返すのか。そこを観察し、新しい回路の土台にしています。
完成したペダルには、二つの歪み回路と、独立したトレブル・ブースターが入っています。
低めの歪みから荒いクランチまでを受け持つG2。より強いオーバードライブやディストーションへ進むG1。二つは別々にも、重ねても使えます。
さらに、三つ目のフットスイッチでトレブル・ブースターを加えられます。
単に変な音を一つ再生する箱ではなく、崩れ方を演奏の中で組み立てるペダルです。
主な仕様は次の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 電源 | 9V DC、センターマイナス |
| 最大消費電流 | 90mA |
| バイパス | True bypass |
| 信号の順番 | Treble Booster → G1 → G2 |
| ブースター | 内部DIPスイッチでFull/Standardを切り替え |
| 寸法 | 14.5 × 12.4 × 5.9cm |
| 重量 | 511g |
Bass、Treble、MAGIC、NotchはG1とG2へ作用し、トレブル・ブースターは独立しています。
「小型アンプらしさ」は、サイズではなく崩れ方にある
Tiny Amp Destroyerの中心には、MAGICという切り替えがあります。
オンにすると、強く押し込まれた小型アンプのように、音が圧縮され、箱っぽく、不安定な反応へ寄っていきます。
Notchノブを回せば、特定の帯域を少しずつ削れます。前へ出る音から、中央が抜けたような空洞のある音まで変えられます。
BassとTrebleは、ブーストとカットの両方が可能です。
面白いのは、小型アンプの外形を再現しているわけではないことです。
小さなスピーカーも、薄いキャビネットもありません。
残そうとしたのは、限界へ近づいた時の反応です。
音量を上げると余裕を失う。帯域が狭くなる。箱の癖が前へ出る。入力の仕方によって、整った歪みと崩れかけた歪みの間を揺れる。
小型アンプらしさを、何ワットか、スピーカーが何インチかではなく、音が崩れていく動きとして捉え直しています。
小型アンプは、賢くなるだけではなかった
以前Rimo Blogでは、小型ギターアンプ、もう練習用で片づけられないという記事を書きました。
そこでは、小型アンプや小型機材がAI、アンプの再現技術、録音や編集機能を取り込み、家の制作環境へ変わっている流れを観測しました。
小さくても、できることは増えていく。
Tiny Amp Destroyerは、その反対側にいます。
小型アンプを高性能にするのではありません。高性能な環境の中へ、小型アンプの不器用さを持ち込みます。
一方は、小さい箱へ多くの機能を入れる。
もう一方は、大きく整った音へ、小さい箱の癖を戻す。
向きは逆ですが、どちらも「小型アンプは大きなアンプの代用品」という見方から離れています。
YAMAHA THRが練習用アンプを独立した機材へ変えたのだとすれば、Tiny Amp Destroyerは、安い小型アンプの失敗しやすさまで独立した音色へ変えたペダルなのかもしれません。
安い音を、高いペダルで作る矛盾
74,800円のペダルで、安い小型アンプのような音を作る。
そこだけ見れば、かなり遠回りです。
本当に小さなアンプを買い、ブースターで限界まで押せば、似た出発点には立てます。録音だけなら、その偶然も含めて本物の面白さがあります。
ただし、偶然できた音を、別の場所でも同じように扱うのは簡単ではありません。
小型アンプは、置く場所、マイク、音量、個体差で反応が変わります。崩れ方が魅力でも、毎回同じ場所で崩れてくれるとは限りません。
Tiny Amp Destroyerが提示している価値の一つは、その不安定さを完全に消さず、足元から扱える回路へ置き直したことにあります。
いつでも同じ音を再生するのではなく、制御できるところと、少し暴れるところを両方残す。
これは、安い音そのものへ高い価格を付けたというより、偶然できた反応を演奏の中で扱えるようにした設計へ価格が付いた、と読むこともできます。
そう考えると、この矛盾は少しだけほどけます。
Tiny Amp Destroyerが向いている人
Tiny Amp Destroyerが合いそうなのは、次のような人です。
- 滑らかで整った歪みより、箱っぽさや荒さを音色として使いたい
- King Gizzard & the Lizard WizardやStu Mackenzieの音作りに惹かれる
- 一台で軽い歪み、強い歪み、トレブル・ブーストを重ねて使いたい
- 大きなアンプやクリーンな環境へ、壊れかけた小型アンプの反応を足したい
- 録音だけでなく、ライブでも同じ方向の音を呼び出したい
一方、誰にでも勧めやすいペダルではありません。
国内価格は7万円台です。一般的な歪みペダルを探している人にとっては、かなり大きな買い物になります。
小型アンプらしい中域、狭さ、荒い飽和を欠点と感じる人にも向きません。透明感のあるブーストや、幅広いジャンルを一台で無難に覆う歪みを求めるなら、ほかの選択肢の方が自然です。
トレブル・ブースターはG1とG2より前に置かれ、Bass、Treble、MAGIC、Notchは二つの歪み回路へ作用します。組み合わせが多いため、実際の操作感は確認したいところです。
買うかどうかは、公式デモだけでなく、自分のギターとアンプで試してから決めるのが安全です。
良い音は、整っている音だけではない
ギターの音作りでは、ノイズ、帯域の狭さ、箱っぽさ、不安定さを消す方向へ進みがちです。
もちろん、それで弾きやすくなる場面は多くあります。
でも、欠点を一つずつ取り除いた先に、必ず自分が弾きたい音が残るとは限りません。
一般に、少し潰れた音は、右手の強さを大げさに見せることがあります。
帯域の狭い音が、ほかの楽器の間に変わった隙間を作ることもあります。
箱っぽい音は、距離や壊れかけた質感を演出する材料にもなります。
Tiny Amp Destroyerが残そうとしたのは、安いアンプの性能ではなく、そこでしか起きなかった出来事です。
壊れかけている。でも、壊れてはいない。
制御できる。でも、完全には整っていない。
その狭い間にある音を、足元へ持ち帰った。
まだ大きな流れとは呼べない、小さなペダルの話です。
ただ、「良い音」の外側にも演奏できる場所があるという観測は、少し長く残るかもしれません。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
それでは、Love Guitar!



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